府中市立府中明郷学園訪問記


府中市立府中明郷学園訪問記
~地域ボランティアと連携による読書活動にかかわる授業事例のご紹介~写真1 ようこそ府中明郷学園へ

 府中市立府中明郷学園では,地域ボランティアと連携して読書活動にかかわる授業を実践されています。
令和2年10月27日(火)に1年生を対象に行われた授業と関係者の皆さんへのインタビューの内容をご紹介します。

【ボランティア「昔話部」による授業】
新米やかかしの実物を子供に見せた後,絵本の読み聞かせや紙芝居の実演がありました。

・ 読み聞かせ『かかしのじいさん』(深山さくら/文,黒井健/絵,佼成出版社,2009)
・ 紙芝居『こめだしえびすさま』(新井悦子/文,いわぶちさちこ/絵,教育画劇,2013)

また,畑で収穫されたサトイモ,サツマイモ,カボチャなどやクリ,カラスウリ,アケビなどの野山の植物の葉や実の実物を子供に見せるなど,実りの秋をテーマとした絵本や紙芝居の世界から子供たちが“本物”に出会う経験ができるよう工夫されていました。

写真2 読み聞かせ   写真3 サツマイモ   写真4 紙芝居上演

【ボランティア「本読堂」による授業】
 
「うちで読もうよ」~ Stay Home! Read Books! ~プロジェクトの図書貸出事業によって貸し出した図書セットの本の中からブックトークをしていただきました。

◎紹介された本
・ 『ペロのおしごと』(樋勝朋巳/作,小学館,2018)
・ 『ねこのホレイショ』(エリナー・クライマー/文,ロバート・クァッケンブッシュ/絵,阿部公子/訳,こぐま社,1999)
・ 『きょうりゅうのきって(ぼくはめいたんてい)』(マージョリー・W.シャーマット/ぶん,マーク・シーモント/え,光吉夏弥/やく,大日本図書,2014)
・ 『こども世界の民話』上,下(内田莉莎子/ほか著,実業之日本社,1995)

写真5 ブックトーク     写真6 図書セット

【ボランティアや学校関係者へのインタビュー】
授業の後,ボランティアや学校関係者の皆様にお話を伺いました。

  ◎ 本読堂さんへのインタビュー
○活動について
・ 月2回朝の読書の時間(15分間)に1年生~4年生と特別支援学級の5クラスに入って読み聞かせを行っている。現在のメンバーは6~7名で活動は16年続いている。写真7 ノート
・ 学校とのやり取りは,教頭先生が連絡窓口となってくださっている。
・ 読み聞かせで読んだ本や感想等をノートに記録し,学校側にも見てもらっている。先生からも感想等を記入してくださることがある。また,「子ども司書」の児童が書き込んでくれることもある。

○選書等について
・ 季節感のあるもの,時事問題や今習っている授業の単元に関連したものなどを選んでいる。
・ 絵がはっきりし,遠くからも見えやすいかにも留意している。
・ 現代は家庭環境も様々で,いろいろな家族の形があることやジェンダーの問題もあるので,多様性という視点にも留意している。
・ 選書に迷ったときは,昔話を選んでいる。昔話は話自体が子供をひきつける力を持っている。
・ 高学年向けには,少し長目の絵本や気持ちが微妙に揺れる内容のものだったり,詩を取り入れたり,授業内容を反映したりといった工夫をしている。また,低年齢向けのものは避けている。
・ 低学年には,絵本の見開きで違う場面となっている絵本など,分かりにくくないかには注意している。
・ 読み聞かせに使う本は府中市立図書館や尾道市立みつぎ子ども図書館で借りたり,自宅にあるものを使ったりする。
・ この活動の中で一番大変なのは,選書。子供たちに喜んでもらえるかどうか真剣に悩む。
・ 読んだ後は,一定期間学校の図書室に置いて子供たちに自由に見てもらえるようにしている。

○読み方について
・ 自分の子供に読んで聞かせて反応を見ている。
・ ページをめくって一呼吸おいてから読むようにしているが,話の流れによっては,さっとめくってすぐ読むなどの工夫をしている。
・ 読みの練習はしっかりするようにしている。
・ 本番では,読む前に子供たちと少し会話をして,コミュニケーションを取ってから始めている。

○子供の反応や様子等について
・ 子供たちが保育所の頃から読んでいるので,目立った変化は感じないが,いつも熱心に聞いてくれる。
・ 子供が大人になって街で出会ったときに,「あの時はおもしろかった」など感想を言ってくれることがあり,活動を続けていて良かったと感じる。
・ 高学年になってくると,少し照れくさそうに聞いている。聞いていないように見えるが,ちゃんと聞いている。そういう姿に思春期をむかえているのだと成長を感じる。子供が幼児のころから読み聞かせを行っており,人間関係ができているので,難しい時期の高学年にも読み聞かせができるのだと思う。
・ 保育所の時から読み聞かせをしていることもあり,本が好きな子供が多く,よく聞いてくれる。そういう子供たちなので,読み聞かせをした時の反応もストレートに返ってくる。選書や読み手の力量が試される。
・ 子供たちが聞く姿勢ができているのは,自分たちの活動よりも,先生方の普段の指導の面が大きいと思う。
・ 新型コロナウイルスの影響による休業明けに久しぶりに子供たちに会ったら,なぜか分からないが,とても成長したように感じた。長年活動してきて,子供の成長に応じて,この時期にはこの程度の本という感覚があるが,例年通りだと子供たちが満足していないように感じるので,少し難し目の本も選んでいる。
※ この点について,校長先生は「祖父母を含め家庭でしっかり子供を見ていただいているのはもちろんだが,コミュニティで子供を見ていただいている点も良いように作用しているのではないか。」とおっしゃっていました。

写真8 児童の様子         

  ◎ 昔話部さんへのインタビュー写真10 サトイモ
・ 平成27(2015)年から活動しており,毎月1回授業を担当している。
・ 昔話を子供に伝える活動はもちろんだが,子供に地域のことを知ってもらうことに重点を置いて活動している。
・ 例えば,地域の昔の話をしたり,植物や野菜,生き物(うなぎなど)を持ち込んで,子供が実際に見たり触ったりできるようにしている。季節を子供たちに伝えることが大事で「この時しか見られない」ものにこだわり,「つて」という「つて」に声をかけると快く提供してくれる。今は新型コロナウイルスの影響でできないが,新米で作ったおにぎりや大学芋を配ったこともある。
・ 時には,地域に子供を連れ出し,稲刈り体験をすることもある。地域の人も,子供に来てもらうのが楽しみになっている。
・ 授業では,科学の本も良く用いる。本に出てきた実物を見てもえるようにしている。実体験をすることで,本を読むという個人の体験をその場にいるみんなで共有したい。人と人のつながりを大事にしたい。

写真11 植物

◎ 校長先生へのインタビュー写真12 児童の様子
・ 子供たちはいつも身を乗り出して聞いている。
・ 読み聞かせなどの体験を通し,子供たちの聞く姿勢,集中力が養われている。
・ ボランティアの皆さんがあそこまでのエネルギーをかけておられるのはすごい。教員が日々授業をする中で同じことをするのは,なかなか難しい。
・ ボランティアの皆さんには,子供たちに対し,注意すべきことはきちんと注意してもらっている。地域の子供を地域の大人がきちんと育てる姿がある。
・ 学校側は教頭がボランティアグループとの連絡窓口となっているが,各グループが非常に主体的に動いてくれるので,学校としては助かっている。

  ◎ 学校司書の方へのインタビュー
・ 先生方は日常的に図書室の本を使った調べ学習を行われている。
・ 図書室の隣はパソコンルームになっているので,両方の部屋を行き来して本とインターネットの両方を使って調べる場合もある。
・ 自分はこの仕事を9年やっており,どの時期にどういう内容の授業があるかを把握しているので,どういう本を準備すればよいかはだいたい分かる。
・ 授業で使う本は,図書室の本以外では,府中市立図書館から借りている。市立図書館に相談すれば,ほぼ対応していただける。
・ 図書委員は昼休みに活動している。

      
写真16 ボランティアの皆さん

子供たちは,ボランティアの皆さんの読み聞かせや本の紹介を,とても熱心に聞いていました。時折,笑い声が起きたり,ボランティアの皆さんからの問いかけに,声を出して反応したりと,子供たちはとてもいきいきとして楽しんでいる様子でした。
ボランティアの皆さんは,教育の場にかかわることへの責任感やプライドを持って活動されており,学校が掲げる「地域の中に学校を!学校の中に地域を!」というビジョンのとおり,学校・児童の双方とって,有効に作用していると感じました。

【「うちで読もうよ」~ Stay Home! Read Books! ~プロジェクト「図書貸出事業」ついて】
「うちで読もうよ」プロジェクトについて,ボランティアや学校関係者の皆さんに感想を伺ったところ,次のご意見をいただきました。
・ 送料無料なのがよい。
・ 年代別に選書もされていて使いやすい。
・ 子供たちが本を借りて家に持って帰ることができてよい。
・ 図書室にも本はあるが,教室に置いておけるのがよい。本があまり好きでない子でも身近に本があるので手に取りやすい。
・ 図書室で本を選ぶのは,様々な本がたくさんあり,子供たち自身がどれを選んでよいか迷ってしまう。このプロジェクトで借りた図書セットは,対象年齢で選ばれており,使いやすい。期間限定でいつも(図書室)と違う場所に本があるというイベント性もよいのではないか。